歴史学の課題と作法
「人と地域が見える日本近現代史研究」追求の経験を語る
小田康徳著
2024年1月10日発刊
「史料は心、史実は宝、歴史の学びは心意気」という著者の思い、それは、歴史の真実を諦めることなく求めようとする研究者の心が史料を見出し、歴史理解上決定的な史実を確定することができるという著者の信念に由来する。これは公害問題史や地域史研究、また陸軍墓地の歴史研究で知られる著者小田康徳氏の半世紀にわたる真剣な調査研究活動から得られた至言である。本書には、歴史研究者として生きるための必須条件や留意すべき課題が実例と共に記述されている。 著者が長年取り組んできた公害問題の歴史に関しては、「公益を害すること」を約めた用語が「公害」であり、国やそれに従属する権力がその公益をどのように考えるかが歴史の変化点となることが論じられる。また、阪神・淡路大震災の経験と反省から過去の大地震や津波についても自然災害としてだけでなく、一歩踏み込み、その時の人間の行動や社会の変化をもたらすものとして、しっかりと調査することが歴史学者の使命であると説いている。著者は歴史理解の根本課題として、人と地域の変化を発見することの重要性を強調する。それは、歴史にはそれが展開する場所があり、人がいて初めて成り立つものだとの認識に立つからである。本書においては、そうした人や地域の変化を見つけ出すために著者自身が格闘し、気付いた要点が惜しげもなく語られる。本書は、著者の実践と反省の上に鍛えられた歴史観にあふれるもので、歴史研究者の道を歩もうとする若い方たちにとっての珠玉の手引書というだけでなく、既に歴史研究者としての道を歩んでいる方々にとっても座右の書となるものである。
*目次紹介*
刊行にあたって
1研究活動の変遷と史学認識
はじめに
第1期 公害問題史と近代和歌山地方史の解明へ(1971~81年)
第2期 近代大阪史研究への挑戦と方法の模索(1981~94年)
第3期 歴史学の根本課題への反省とそれが噴出する場の認識へ(1995~2006年)
第4期 市民との協働、軍事・戦争史への挑戦(2006~現在)
2歴史学の基本視点
はじめに
1、史・資料の調査と歴史に対する問題意識
2、先入観への気付きから歴史認識の転換へ
3、歴史の論点と現場
4、歴史を知るということ、補足いろいろ
3講演記録 公害・環境問題の歴史と地方史研究
(前置き)
1、公害・環境問題とは何か
2、地域社会の歴史的変遷と公害・環境問題
おわりに
4著述推移の概略一覧
索引
- 判型 : A5判並製
- 頁数 : 256頁
- ISBN : 978-4-907244-52-1